番外編・成分分析書の読み方について
今更感があるわけですが、このブログでは基本的に温泉の紹介にできるだけ成分分析書を併せて掲載するようにしています。(読みづらいけど)
成分分析書から判る事(前半)
今回はその泉質が特殊な野中温泉
で解説します。
まず分析表の上半分。温泉を評価する上で重要なスペックが記してありますね。
①泉温・・・源泉の温度。
まぁ温度なんでみれば判るやろって話ですが、家庭の風呂が40-42℃位だとイメージしてください。温泉はその成分濃度によって普通の真湯と比べて熱を感じにくくなる傾向があるので、同じ温度でも家庭の風呂とは感じ方が違う事があります。
家の風呂で44℃にしてしまうと、入る時に熱ゥイッ!となる筈です。
あと、この温度は源泉部位での温度。源泉と浴槽との距離を考察してみれば、その湯が何処かで沸かしているのかどうかを推測する事ができます。
②知覚的試験・・・見た目や味の事です。
酸性が強ければ酸っぱく感じ、アルカリ性→特に単純泉であるほど甘く感じる傾向があります。蛍の歌とかでも云われてますね。こっちのみーずはあーまいぞーって。
これに塩類が入る事で複雑な味になります。塩化ナトリウム(食塩)ならば塩辛く、マグネシウムやカルシウムなど、それ以外のミネラルを含むとカン味と呼ばれる独特の味を呈します。
③pH・・・酸性&アルカリ性の指標です。
よもや教養のレベルなので特に解説しませんでしたが、pHは液体の酸性度・アルカリ性度を意味する指標です。
・pH1~2は胃液と同じ強さの酸
・pH7がちょうど中性で、それ以上はアルカリ性となります。
温泉の最高pHは12程度であるとされており、アルカリ性が強い程皮膚が溶けます。角質が溶けてヌルヌルとするため、アルカリ性泉はしばしば美人の湯と呼ばれます。
密度や揮発残留物はあまり気にしてません。
成分分析書から判る事(後半)
反射で少しわかりづらいですが、ここからが本番。
中央から左側が陽イオン・右側が陰イオンの分布を記してあります。
④陽イオン
・水素(H+)・・・pH値の基準となる元素であり、これが検出されると強力な酸性泉である事を意味します。
・ナトリウムイオン(Na+)・・・食塩の主成分。大体の温泉はこのナトリウムが主たるイオンとなります。水の表面張力を下げ、熱の伝わりを高めます。また、皮膚表面上の脂肪酸とくっついてコーティングし、保温効果を与えます。
・カリウムイオン(K+)・・・ナトリウムイオンに近い作用があると思われますが、こちらの方が粒子が大きい。
・アンモニウムイオン(NH4+)・・・これが多いとアンモニア臭がします。臭いですが、これはこれでレア成分です。身体に与える効能は不明。窒素化合物だけに何らかの効果はあると思うのだが・・・。地質学的にも興味深い成分。
・マグネシウムイオン(Mg2+)・・・ナトリウムと同じく皮膚の脂肪酸と結合してコーティング作用があると思われます。下剤効果もあり、その昔は湯の花が薬として利用されていました。
・カルシウムイオン(Ca2+)・・・マグネシウムイオンと同じくコーティング作用と、飲めば下剤効果があります。
・アルミニウムイオン(Al3+)・・・ミョウバンの元となる成分。皮膚のコーティング効果のほか、傷の回復を促す効果があると思われます。
・鉄(Fe2+またはFe3+)・・・皮膚関係への効果は不明ですが、湯の熱を皮膚に伝える効果に影響がありそうです。飲泉しても貧血にはあまり効果が無いと思われます。鉄を含む温泉は赤茶色になったり、硫黄と絡むと黒い色になったりします。
⑤陰イオン
・フッ素(F)・・・身体への影響はよくわかんないです。
・塩素イオン(Cl)・・・基本的に食塩の成分としてナトリウムとセットですが、ナトリウムや他のミネラルが少ない場合は塩酸の一部だと思って下さい。
・水酸化物イオン(OH)・・・アルカリ性の指標です。これが検出されると相当なアルカリ性だという意味になります。まず検出されないので、省略されている事も。
・硫化水素イオン(HS)・・・液中にイオン化した硫化水素ガスです。相当な高い圧が掛からないと硫化水素はイオン化しないため、珍しい成分と云えます。これが溶けると液の色が緑色とか水色とか、鮮やかな色になる事が多いです。
・チオ硫酸イオン(S2O3)・・・硫黄の総量の指標としてカウントされます。余談ですが、イソジンの茶色い色を消します。
・リン酸イオン(H2PO4)・・・あまり検出されません。詳細な効果は不明ですが、人体中ではエネルギーを伝えるリンの提供やpHの調整役として存在しています。
・硫酸イオン(SO4)・・・硫酸は非常に水分子と結合しやすく、保湿作用があるものと思われます。飲むと下剤効果があります。
・炭酸水素イオン(HCO3)・・・重曹の主成分です。皮膚を洗浄したり、血管の拡張作用があります。これが多い温泉は液性がアルカリに偏る傾向があります。
・炭酸イオン(CO3)・・・これはイオンがどうとかよりも、ガス成分の方に意味があります。
⑥その他の成分
・メタケイ酸&メタホウ酸・・・まだあまり細かい効果についてはハッキリしていませんが、基本的に反応性の低い成分なので、個人的には吸収されてどうこうというよりも皮膚のコーティング効果に意味があるのでは?と考えています。
・遊離炭酸ガス(CO2)・・・炭酸ガスには強力な血管拡張作用があります。筋肉も解れますが、風呂上りには血管も拡がって熱の放散がしやすくなるため、逆に湯冷めしやすくなる成分です。スーパー銭湯の高濃度炭酸泉が1000mg/kg程度ある事を考えると、その温泉の遊離炭酸ガス含有量で、湯がどの程度のポテンシャルにあるのかが分かると思います。
・遊離硫化水素(H2S)・・・よく死亡事故にもつながるアレです。湯に溶けると白濁を呈し、卵の腐ったような匂いがします。水分子と性質が似ており、皮膚からもよく吸収されます。硫黄は他の水分子を引き込む効果があるので、保湿作用があるのではないかと思われます。飲泉でも下剤効果があります。とにかくこの硫化水素はよく身体に吸収され、非常に多くの効果を身体にもたらすため、浴後はかなり疲れます。
名湯とは即ち白く濁った硫黄泉と呼ばれるのは、この為なのではないしょうか。
⑦成分総計・・・その温泉に溶けている各主成分の総量です。
・1000mg/kg以下→単純泉(とても薄いお湯)
基本的に水圧が低く、身体への負担が少ない湯です。熱を感じやすい湯です。
・1000~8000mg未満/kg→低張泉(生理食塩水よりも薄い)
大抵の温泉はここに属します。適度に塩分を含み、保湿・保温効果に優れます。
・8000~10000mg/kg→等張泉(生理食塩水とほぼ等張)
体液と浸透圧差が少なく、熱いお湯でも熱を感じにくくなります。塩分も大分溶けているので、浴後かなり温まります。
・10000mg以上/kg→高張泉(生理食塩水よりも濃い)
かなり重い湯で、使っているだけで大量の汗をかき、身体からどんどん水分が奪われていきます。負担の強い湯ですが、ホルミシス効果も高く、医学的にも興味深い効果がある湯と思われます。湯治向き。
また、強い放射能泉は大抵この高張泉に属するため、よく体調を考えながら入る必要があります。
ざっくりですが、こんなところかな。
温泉とは教養であり、文化であり、治療であり、立派な学問であります。
此処では書かなかったモール質など、地学面でも考察すべきところは多く、一朝一夕でに理解する事は出来ません。解れば解るほど解らなくなることも多く、私自身もまだまだ勉強中の身です。
この記事はそういった教養の入口になってもらえると良いですね。