温泉美食倶楽部活動報告書

温泉の成分分析表に興味ある人向け

108・オソウシ温泉

温泉

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施設外観。見るからに秘湯感を醸し出しているまさに秘湯。

事実、とんでもなく辺鄙なところにあります。

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大浴場。シンプルな内湯は加温による提供。というのも、ここの源泉は25℃程度しかないので、加温しないと入れないのである。その代わり・・・

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ちゃんと源泉を水風呂として用意してくれている。

歪みねぇ~。

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露天風呂もあります。内湯よりも若干ぬるめに設定されているんですが、ご覧の通り外がもうクソ寒いため、一度入ると迂闊に出られなくなるリスクがガガガ。

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こちらが源泉。源泉はなんと自噴で、25℃程度の泉温です。そのため、この源泉をプールした源泉浴槽は外気が寒すぎてほぼ水になっていました。

筒から垂れてる産まれたての源泉だけが仄かに温かい。

 

成分分析書

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特筆すべきはpH値。

なんと10もあります。通常では検出されない水酸化物イオンがkg辺り1.7mg検出されており、世界的にも稀有な泉質を持った温泉です。

この他にも滅多にイオン型を取らない硫化水素イオンが多い事も特徴かもしれません。もう少しミネラルが多かったり泉温が高ければ、緑色とかになっていたかもしれない・・・?

ここと近い泉質を持っているのは私の知る限り日本でも埼玉の都幾川温泉(貸切専用)と、長野の白馬八方温泉位のものです。

たまげたなぁ・・・。

 

概要

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場所は北海道のほぼど真ん中。

以前紹介したトムラウシ温泉

sticknumber31.hatenablog.com

に向かう道の途中で、然別湖の方に少しそれた林道の先にある温泉。

トムラウシ温泉よりは行きやすいが、途中から7km近くは未舗装路を走らねばならない為、かなり行きづらい場所にある正しく秘湯です。

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道中の道はこんな感じです。熊とかマジで出そうなんだよなぁ・・・。

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ただ、旅館にはクッソ可愛い猛獣ことケンさん(秋田犬)が放し飼い(首輪してない)されているため、こいつが熊や鹿のバリアーとなっているようです。

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もう老犬の部類に入るケンさんですが、非常に頭が良いです。

私は「散歩に行こうぜ。」と声をかけて周囲を歩いたのですが、それを聞いた彼はこのように私の行く先々であちこちにマーキングをして、色々な動物が近寄らないように先導してくれました。

エゾオオカミのいなくなったこの北海道にあって、秋田犬であるケンさんは事実上の王者として森に君臨しているのです。

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若い頃は小鹿程度なら自分一人で仕留めて食ってたというケンさん。

今は旅館の番犬として、来客の車の音を聴くと主人に吠えて教えてくれるアラーム役として過ごしている。

仲良くなった彼は帰りも見送りをしてくれた。クッソ可愛い益獣。

 

総評

この温泉はまず間違いなく北海道内でも他に類のない唯一無二の泉質を持っている温泉です。東北地方でもこれほど純度の高い強アルカリのこの泉質は見たことがありません。

 

まず簡単に云うと天然の石鹸水です。

いや、実際の所その表現は少し語弊がある。

正しく表現するならば、天然の石鹸の元の水が良いかもしれない。

石鹸水とはアルカリで鹸化した脂肪酸塩が溶けた溶液の事で、アルカリの強いこの温泉は人間の皮膚上でその脂肪酸と反応し、皮膚の表面に石鹸が出現します。

 

そのため、湯に漬かった直後は皮膚がどんどんアルカリで溶かされて石鹸と化し、ヌルヌルとした感触が全身に広がるのです。

しかしこのヌルヌルは長湯によってやがて収まります。

 

皮膚のバリア機能を果たしていた脂肪酸が洗い流されると、今度は手や皮膚にパツパツとした摩擦感が現れ始めるのです。

それはまるで、石鹸で手を洗いすぎた後のようです。

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参考画像①

これは洗い場の側に設けられているかけ湯代わりの源泉だが、実はこのかけ湯、よーく観察してみると・・・

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参考画像②

ヌルヌルとした水垢のような物・・・いや、これは石鹸だ!

石鹸を一晩水に浸した時にできるヌルヌルとした浮遊物が、このかけ湯に発生しているのである。実はこの写真は前日の夜にかけ湯槽をきれいに掃除した後、一晩おいた後に撮影したものだが、強アルカリであるこの温泉は常に液中にある有機物と反応してこのような石鹸を発生させているのである。

 

念の為内湯ももう一度観察してみると、温度が高いため殆どが溶解しているが確かにフワフワとした水垢のようなものが浮いているではないか。

これは入浴客の肌の脂肪酸や配管の中に生じた有機物に温泉が反応してできた石鹸だと思われます。他にも露天風呂ももう一度観察しましたが、浴槽の縁に生えている雑草の葉が、ヌルヌルと溶解されて浴槽に沈んでいるのを発見した。

 

何という事だ、これはあらゆる生物を溶かす魔性の温泉なのだ・・・!

 

そこで入浴前後の効能の検証に入る。

 

通常、塩類泉などは皮膚表面の脂肪酸にナトリウムやカルシウムなどのイオンが付着して皮膚をコーティングし、保温効果を高めると云われているが、この温泉はその真逆を行くと云う事が判った。

 

つまり、皮膚の脂肪酸を極力洗い流す事で、浴後は体温が奪われやすい状態に陥ってしまうのである。

事実、25℃の源泉水風呂との交代浴を試してみたのだが、この源泉水風呂は25℃とは思えない程冷たく感じるではないか!通常は15℃程度の水風呂に入っても何ともない自分が、25℃の水風呂で寒さを感じるというのは、つまり身体を冷気から守っていたバリアが落ちてしまっている事を意味する。

 

だが、ホメオスタシス(人体の恒常性)って面白いもので、浴後の私の身体は失われた皮膚の脂肪酸を取り戻さんと、汗腺から大量の汗を噴き出してくるのである。

 

この発汗を温熱効果と勘違いしている人は多いようで、この温泉は温まる!と宿の主人は主張していたが、科学的に考えてこれはありえないと思う。

恐らく温泉の中のアルカリによる脂肪酸の喪失で、新陳代謝が活性化して皮膚表面の分泌系が亢進しているホルミシス効果なのではないかと私は考える。

 

数多くの温泉を入って来た自分だが、この浴感は初めての感覚で、大変な驚きと好奇心を持ってこの温泉を堪能する事が出来た。

 

これらの効能を踏まえて医学的にこの温泉の効能を評価するとすれば、その本質は皮膚の洗浄と代謝の亢進にあるかもしれない。風呂に入る度に大量の脂が洗い流されるので、皮脂の多い吹き出物体質の人や、皮下脂肪の多い肥満傾向な人間の湯治にはうってつけなのではないか?

昼間はケンさんと共に山を歩き、脂質の少ない山菜料理を食べて、毎日この風呂に入れば体質そのものがガラッと変わりそうな気がする。

 

逆に、身体が細く、皮下脂肪の少ない人間には酷な温泉になりうるという事も付け加えておきたい。そういう人は単純泉か薄めの塩化物泉の方が合っている筈だろう。

 

その希少性からして、このオソウシ温泉は泉質ガチ勢として北海道最高ランクの称号に相応しいと思われます。

 

美食

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晩飯は一般的な旅館飯。野菜や山菜を中心に、心ばかしの刺身などが付く。

ちなみにグレードを上げて黒カレイの煮付けを出してもらっている。

カレイもそうだが、右手にあるエゾシカ肉の煮込みも非常に美味くて、山菜中心だった翌日の朝ごはんも含めて

「あぁそうそう、こういうのでいいんだよ・・・」

と言いたくなるラインナップでした。

 

とにかくここは泉質がヤバいので、泉質ガチ勢は一度行くべき。

塩素も加水も一切ないので、強アルカリ性泉の本性を見て取れる稀有な温泉でした。