温泉美食倶楽部活動報告書

温泉の成分分析表に興味ある人向け

番外編・温泉に絡む学問を考える。

地学的な意味での日本の温泉

日本は温泉大国だと云うのはよく聞く話だが、それを何処まで実感できているのかという問題。

2015年の観光庁のまとめたデータによると、日本は国内だけで温泉地が3155ヶ、そして源泉数に至ると17581ヶ所もあるという。

 

これが海外だとどうなのかと云うと、火山の多いイタリアでも温泉地は200か所程度、風呂文化の根付いているトルコでも1000ヶ所程度という事で、この領土面積に3000ヶ所以上の温泉がひしめく日本がいかに異常な数の温泉が出ているのかが伺える。

 

何でこんなに日本は温泉が湧くのかといえば、水と地熱が豊富だからである。

温泉って水と地熱さえあれば理屈上は何処でも湧くので、海に囲まれた日本は温泉の水源の大半は海から貰っていると云う事になる。

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では地熱はどうなのか?というと、この地図からも判るように日本はその陸地の下に地震の原因になるプレートが3枚も交差しており、云うなれば日本という陸地の下で地球の殻が擦れ合っている状態なのである。

 

摩擦熱というとイメージしやすいでしょうが、地球規模のサイズで地面と地面が擦れ合うと、それはもう莫大なエネルギーが発生するという訳で、日本の数十キロ地下の世界では擦れあうプレートによって生じた熱で岩盤が溶け、マグマとなって存在しているという訳です。時折そのずれ込みに上側のプレートがペロン!と反り戻るのがプレート型地震で、未曽有の大災害となった東日本大震災震源地がどの辺にあるのかを見てもらえると・・・。

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あっ・・・(察し)

 

地熱と関係ある以上、温泉は地震とも密接な関係があるという訳ですなぁ。

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この地図の赤で囲った部分は富士山と伊豆半島と伊豆諸島をかなりざっくり示してますが、この辺は海底火山もバカスカ湧くホットスポットであり、伊豆半島もそうですが、海に囲まれた伊豆諸島の島々に湧く温泉は殆どが塩類泉です。

 

なお富士山周辺辺りから塩類泉は減り、特に山梨側に行くと単純泉が増え、液性もアルカリ性側に寄って肌触りがツルツルとしてきます。これは海から遠ざかるのに加えて、水源が富士の湧水に近くなる事が原因だと思われます。温泉は不純物が少なくなる=単純泉に寄るほどpHがアルカリ性側に寄る事が知られており、巨大な富士山の重みで圧の掛かった地下水が不純物を吸着する溶岩石などに磨かれているためだと思われます。

 

歴史と文学

伊豆で元も有名な温泉は静岡県の熱海温泉ですが、海に面したここの温泉は前述の通り見事な塩類泉を呈しています。

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熱海に行くと大体立ち寄りたくなるのがこの日光亭大湯。

かつて徳川家康に献上された源泉を使っているとされ、今はもう枯渇してしまった熱海間欠泉(今は人工的に定期的に噴出させている)の直ぐ近くにある、非常に古い温泉です。

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江戸幕府の初代将軍徳川家康は熱海の温泉をこよなく愛したそうで、ここの源泉をわざわざ桶に詰めて江戸幕府まで運ばせたと云われている。贅沢な話ですが、横浜にある万葉の湯は湯河原にある源泉をタンクローリーで運ばせて使用しているので、毎日運んでるのかどうかは知りませんが、ある意味マジキチレベルの温泉への執着が我々日本人にはあるような気がしますね。

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ちなみに熱海間欠泉は最初の市外公衆電話が設置された場所としても有名です。

今ではすっかり見なくなった公衆電話ですが、いずれここも撤去されてしまうのでしょうか?

 

さて、熱海と云えば尾崎紅葉の「金色夜叉」のお宮の松が有名ですが、文学という点では熱海に限らず中伊豆の湯ケ野・湯ヶ島や、源頼朝に由来のある伊豆山、太宰治島崎藤村は湯河原、与謝野晶子が宿泊したという群馬の法師温泉など、東京周辺の温泉は近代以降の文筆家に愛された湯治場が沢山あります。

伊豆箱根以外でも四国の道後温泉夏目漱石に所縁があったり、関西の奥座敷と評される兵庫県有馬温泉や、いくつもの隠し湯を噂される武田信玄甲府エリアのように、温泉というのは歴史的に重要な面とは別に文学史の中にもしばしば登場するものだったりしますね。

 

まー自分はあまり文学とか歴史には詳しくない人間なので詳しくはかけませんが、温熱効果を期待する医学的な以外にも色々な学問と交差していると云うのが温泉の面白い所だと思います。

 

やっぱり考察したい医学面

日本の温泉医学のルーツというのは割と群馬大学医学部に招聘されていたベルツ博士の草津温泉に関する研究が興味深い所ですが、

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湯田中温泉には陸軍軍医の某偉い人が入浴法などを残していたりと、やはり温泉は古来から病や怪我の治療に一定の役割を果たしてきました。

 

ちなみに私も左腕上腕骨の骨折を温泉治療で治した事がありますが、骨折初期は炎症が強いため入浴禁忌。それから2日に一回程度へ制限解除されるが、退院後に入浴が毎日解禁になってからは回復が速いのなんの。昼間からレバニラ食ったりビール飲んだりして温泉ガッツリ入ってたらものすごい速度で骨がくっついて行きました。

血行が良くなると云うのはそれくらい医学的に治癒効果が高まると云う事なんですなぁ。

 

ちなみに海外では日本ほど地熱が無い地域が多い為、入浴というよりもミネラル補充(必須微量元素)の為の飲泉として使われる事が多く、入浴による治療実践の機会が多い日本は非常に恵まれた環境にあると云えるでしょう。

 

病気に効くの?という問題

骨折は?

骨折に関しては前述の通り、非常によく効きました。2カ月程度と云われていた治療期間が1カ月半と2週間程度早まったのです。

 

皮膚病は?

怪我以外ではどうか?皮膚科領域でも一定の効果があるようです。

これも体験談ですが、1年以上かかりましたが毎日温泉入ってて魚の目が自然治癒した経験もあるので、皮膚の硬化や乾燥、創傷の治癒には高い効果がある模様。

酸性泉などは比較的短期間で水虫などの皮膚感染症にも高い効果があるようです。

 

神経痛は?

神経痛の改善は温泉の代名詞みたいな効能です。

怪我や糖尿病などで足の指先を切断したりしたケースだと、炭酸泉による足湯が血行改善効果により一部の後遺症状を和らげる作用が確認されています。

あと、神経痛は身体を強く温める生薬(附子など)が良く効く場合が多いので、やはり温熱効果は神経因性の痛みには一定の効果があるものと思われますね。

 

痛風は?

水をこまめに取りながら入浴すれば、温熱効果で尿酸の溶解が上昇して足先などの再発防止にはなるかもしれません。酸性泉や放射能泉には尿酸の排泄能を高める効果があるのだとか。ただし、炎症発生中は禁忌なので注意。

 

糖尿病は?

酸性泉や放射能泉には耐糖能を上げる効果が期待されていますが、ホルミシス効果による改善が何処まで見込めるかは謎が多い。

ただ、湯治食と併せれば確実に効果は出る。(食事療法)

 

癌は?

放射能泉や北投石岩盤浴ホルミシス効果で癌に効くとも言われていますが、効果については極めてグレーゾーンです。それどころか癌にも色々とあって恩恵を受けやすい部位や逆に体力の消耗が仇になるケースもあるので、この辺は病状により推奨されないケースがあるでしょう。

 

この手の病気は体力勝負な側面が大きく、入浴というのは食事と同様に非常に体力を消耗する行為なので、ある程度の体力があれば実践する意義もあるかもしれませんが、湯あたりを起こしてしまえば逆に一気に病状が進行する事も考えられるので、必ずがん治療に詳しい医師の指示を貰うようにしましょう。

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秋田県田沢湖上流にある玉川温泉α線を発する北投石が地中に多く含まれており、岩盤浴治療に訪れるがん患者が後を絶たない。微弱なα線を浴びると細胞の破壊が起き、それを修復しようとする免疫系の活性化で癌の回復に効果があると期待されている・・・のだが、

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ここのお湯はpHが1.1と非常に強力な酸で、蒸気を吸うだけでも結構しんどい。

 

酸性泉もそうですが、特に放射能泉は高張性で湯が重い源泉が多く、想像以上に水圧で体力を消耗します。薬で云うと良く効くけど副作用の強い劇薬のような物だとイメージしてもらうとよいでしょう。場合によっては身体に負担の軽い単純泉の方が良かったりする事もあると思います。

 

ちなみに、発熱や風邪も同じような理由で入浴が制限される場合があります。

体力がないときに温泉入ると割とろくなことにならない、という事やね。

 

うつ病は?

重症の場合、短期的には旅行先などで自殺してしまう人もいるので色々とあれですが、治すつもりで湯治をすれば確実に効果は出ると思います。いわゆる森田療法に近いやり方かもしれませんね。

うつ病はうつの原因から遠ざかる事が最大の治療法なので、死にたくなったら自分はまずスーパー銭湯に行って一日何もしないで過ごすと云うのを実践するようにしてます。

 

高血圧は?

血管はゴムホースのような物で、加齢や不摂生で動脈硬化を起こし固くなってしなりがなくなると血圧がだんだん高くなっていきます。

 

基本的に高血圧の人の入浴は・・・

1.脱衣所を寒くしない。

2.かけ湯で身体を湯に慣らし、急に熱い湯に入らない。

3.入る前に水を飲んでおく。

4.発汗し過ぎない程度に入る。

がポイントになります。

 

温泉による温熱効果は一時的に血液の粘度を下げるのと同時に、水風呂による温冷交代浴は血管の伸縮性を高めて高血圧の予防に一定の効果があると思われます。(もう動脈硬化が進んじゃった人はこの入り方は危険

 

温浴は一時的に血小板の効果を高めて、一過性の血栓発生を助長(体温の上昇に応じて酵素反応が活発になるため)してしまう場合があるので、入浴前の飲水が非常に重要になってきます。まぁこの一過性の血液凝固の亢進が骨折や創傷の治癒に一役買っていると思ってもらうと理解しやすいかも。

 

発汗が多くなっても血液は水分を失ってドロドロになりやすくなるので、サウナは高血圧の方は禁忌となる場合が多い。重度の高血圧の方はもう既に血管の伸縮性が低下しており、入浴自体がリスクだという自覚が必要です。

 

軽度高血圧の人にお勧めなのが炭酸泉か重曹泉で、低温でも血管が拡張しやすくなるので非常に相性が良い泉質と云えるでしょう。ただ、血圧の薬飲んでる人ってよく温泉の後に血圧が下がりすぎてぶっ倒れる人が多いので長湯は注意。温泉は直接血圧に与える影響が大きいので、普段から自分の体の状態をよく観察しておきましょう。

 

このように、温泉は病気やけがの種類によっては有益な効果がある一方で、リスキーな要素も兼ね備えているので、体調をよく考えて適切な泉質を選んではいると良いでしょう。とにかく、温泉に入る事で身体の中でどんな事が起こるのかを理解して入る事が大事ですね。

 

終わりに

色々と語りましたが、歴史、文学、地学、医学・・・これら以外にも地域住民の入浴方法やマナーにもその土地の温泉(公衆浴場)の有無(普及度)や形態(関西式・関東式・TOUHOKU式)で地域差があったりと、温泉から窺い知れるものはまだまだ数多くあります。

 

温泉とは幅広い学問への造詣が深まる一大学問であり、教養でもあります。

これを読んだ人が一つ違った見方で温泉を楽しんでもらえれば幸いに想います。