番外編・温泉の泉質と効能についての考察と検証
仮の職業薬剤師として、温泉の効能を漢方の効果に準えて陰陽で捉えてみる事にした。
効能に関しては諸説あるだろうが、一応科学的な根拠と実際の入浴体験からまとめてある。
分かりやすいように身体を温めるなど、陽の効果は赤、身体を冷やすなど、陰の効果は青で記載した。
1.温泉の泉質
こういうのは温泉ソムリエや温泉保養士など各種テキストに記載されているので、興味ある方はそちらの方を受講してもらえると手っ取り早いわけですが、一応ここでも簡単に分類を記載しておきます。
1-A.泉温による分類
冷鉱泉・・・25℃未満 交感神経優位
低温泉・・・25℃以上34℃未満 交感神経優位
中温泉・・・34℃以上42℃未満 副交感神経優位
高温泉・・・42℃以上 交感神経優位
1-B.液性による分類
酸性泉・・・・・pH3未満 身体を温める陽の効果
弱酸性泉・・・・pH3以上6未満 身体を温める陽の効果
中性泉・・・・・pH6以上7.5未満
弱アルカリ性泉・pH7.5以上8.5未満 身体を冷やす陰の効果
アルカリ性泉・・pH8.5以上 身体を冷やす陰の効果
1-C.浸透圧による分類
低張泉・・・成分総計8000mg/kg未満 身体に水が入り込む保湿効果
等張泉・・・成分総計8000mg/kg以上10000mg/kg未満
高張泉・・・成分総計10000mg/kg以上 身体から水が抜ける脱水効果
1-D.液性による分類
1-D-1.単純泉・・・成分総計1000mg/kg未満の温泉(低負担・低温熱)
1-D-2.塩類泉
A.塩化物泉・・・主たる陰イオンを塩素イオン(Cl⁻)が占める塩類泉
B.炭酸水素塩泉・主たる陰イオンを炭酸水素イオン(HCO3⁻)が占める塩類
C.硫酸塩泉・・・主たる陰イオンが硫酸イオン(SO4₂⁻)が占める塩類泉
1-D-3.特殊成分泉
A.二酸化炭素泉・・・炭酸ガスとして1000mg/kg以上含有
B.鉄泉 ・・・総鉄として20mg/kg以上含有
C.酸性泉 ・・・水素イオンを1mg/kg以上含有(pH3未満)
E.硫黄泉 ・・・総硫黄(硫化水素ガスも含む)として2mg/kg以上含有
F.放射能泉 ・・・Rn(ラドン)として8.25マッヘ(111Bq以上)
2.温泉の効能
温熱効果→温泉の温度による効果
○当然の事ながら温度が高い温泉ほど温まりが早く、また湯冷めしにくくなる。
○低温、高温域では身体への負担が大きくなる。
※ここでの最大のポイントは、約37℃~40℃周辺では副交感神経が優位に働き、それ以外の温度域では交感神経が優位に働くという点だ。要するに、上記の温度域以外は身体への負担が大きいと云う事を意味する。
液性効果→温泉の液性(酸性度・アルカリ性)による効果
○酸性が強くなるほど皮膚表面では軽度の炎症が起きやすくなり、温熱効果が高まると同時に肉体への負担も高くなる。軽度炎症はしばらく続くので、湯冷めはしにくくなる。
○逆に液性がアルカリに寄るほど皮膚の洗浄力は高くなるが、温熱効果は長湯する程高まるものの、皮脂が落ちる為に浴後の湯冷めがしやすくなる。
物理効果→温泉の比重(重さ・浸透圧)による効果
○重い湯(浸透圧の高い湯)ほど皮膚を抑えつける圧は高くなり、身体にかかる負担は大きくなるが、高張泉ほど多くの塩分を含むために保温効果は高まり、湯冷めしにくくなる。
○軽い湯(浸透圧の低い湯)の多くは単純泉であり、身体を抑えつける圧は低く肉体への負担は軽くなるが、同時に浴後の保温効果は低くなる。湯冷めしやすい。
成分効果→温泉の個別成分による効果
○塩類泉ではNa、Caなど陽イオンが豊富なほど皮膚のコーティング効果が高くなり、表面張力は低下して温熱効果は高まり、湯冷めしにくくなる。
○塩化物泉よりも硫酸塩泉は若干保湿効果が高い。
○塩類泉でも炭酸水素イオンが豊富な温泉は血管拡張作用が高くなり、身体を温める効果は高くなるものの、一方で浴後は身体の熱が奪われやすくなる。
○二酸化炭素ガスを含んだ温泉は血管拡張作用が高まり、身体を温める効果は高くなるものの、浴後の身体の熱は奪われやすくなる。(湯冷めしやすくなる)
○鉄泉は温熱効果が高く、保熱効果も高いため湯冷めしにくい。一方で他の塩類泉に比べると負担が大きい。
○酸性泉は液性の欄で記載済みの通り、温熱効果も保熱効果も高い。湯冷めしにくい。
○ヨウ素泉は知られてない効果が多く、謎。
○硫黄泉は温熱効果・保湿効果のほか、尿酸などの排毒作用があるがその分身体への負担が大きい。湯冷めしにくい一方で、とても湯あたりしやすい。
○放射能泉は身体への負担が非常に大きい反面、α線を浴びる事で様々な面でホルミシス効果が高いと推測される。湯あたりもしやすいが、冷鉱泉である場合も多いので温熱効果・保温効果に関しては入り方次第。
○成分分析表には載らない事が多いが、アブラ系モール泉は浴後に有機物が皮膚を覆うため、浴後の保温効果が非常に高い。
3.実際の効能評価
これに関しては実際には行ってみるまで分からない。
だが、温泉のスペックたる成分分析表からは色々な事が判る。
○サンプルその1
冷える温泉の代表はこないだ記事を書いたオソウシ温泉だ。
ここの温泉で判った事は、アルカリ性の液性により皮脂の洗い流された身体は、浴後にとても冷えやすくなる一方で、その身体が皮脂を補完すべく発汗が著しく亢進するという点である。
○サンプルその2
強烈な酸性硫黄泉である蔵王温泉。泉温も高く、浴後は非常に湯疲れする。
相応量の炭酸ガスも含むが、それ以上に温熱効果の方が高い。
○サンプルその3
長万部温泉は若干濃い目だがほぼ等張泉。しかしアブラ系のモールが豊富で、酸や硫黄は無くとも充分保温効果が高く、その臭気からも湯あたりしやすい湯に位置する。
長万部温泉は炭酸水素イオンも豊富な部類に入るが、これほどの源泉温度と濃度になると、弱アルカリの冷やす液性よりも温熱効果が高く出ていると云える。
以上のように、温泉のスペックとは非常に多軸に渡る。
それぞれの温泉の効能はそれらの評価軸をいくつかに重ね合わせて総合的に評価する必要があると云えるだろう。
111・摩周温泉・亀の湯(鐺別温泉)と泉の湯(町営温泉)
温泉
亀の湯の施設外観。かなり年季の入った、古い銭湯だ。
浴場は一つ。カランもあるが、クソ熱い源泉を水で薄めながら使うタイプだったので。床に座って関西方式で浴槽の湯で身体を洗って入った。
成分分析書
源泉74℃!成分的には薄めのナトリウム・カルシウム/塩化物・硫酸塩泉。
こちらは泉の湯の分析表。
2源泉の混合泉の為か、少し成分が濃い。
表示こそ異なるが、概ね同じ泉質の温泉と言っても間違いないだろう。
概要
駅名は摩周なんだけど、町自体は弟子屈町という名前です。
弟子屈町は摩周温泉郷と呼ばれていて、町のあちこちに温泉が湧き出ています。
上の地図は亀の湯の場所ですが、変電所の近くに泉の湯があります。
いずれも屈斜路湖系の熱源なのですが、やはり硫黄山からは離れていると云う事もあって、透明な温泉が多く発生しています。
泉の湯もこんな感じで亀の湯といい勝負で古い。ただ、どちらも200円で入れると云うのがスゲー。って事は、亀の湯も実は町営なのか?
町の外れにある亀の湯は旧名を鐺別(とうべつ)温泉といい、源泉名は桜丘温泉という。摩周温泉でもあり鐺別温泉でもあり桜丘温泉でもあるわけだ。うむ、ややこしい。
地域的に概ね同じ水脈の同じ地熱で温められてる温泉っぽいので、まぁ摩周温泉って括りで良いと思いますがね。
ちなみに・・・
冬は気温がこれくらい普通に下がる地域です。
恐ろしく寒い!だが・・・!
だからこそ!ここの温泉は古くから町民に愛されてきたのでしょう。
総評
泉の湯、亀の湯ともにクッソ熱いのがまず最初のポイント。
亀の湯はまだ浴槽が小さいので、適度に調整はされているが、それでも足の指先にピリピリくるような温度で湯が張られていた。
体感的には泉の湯の方が浴槽が広く、利用者もまばらだったために湯温も熱く感じた。
とにかく熱い事が共通する両湯だが、浴感もほぼ差がない。
ほぼ単純泉に近い程の薄めな湯である事から、特別な匂いもないしクセが無く入りやすい。江戸っ子が好みそうなお風呂と言えば分かりやすいかもしれませんね。
それでも古くから極寒の地で暮らす弟子屈町民の手足を温めてきた温泉だけに、浴後はマイナス10℃を下回る空気でも簡単には湯冷めをしません。
適度に硫酸塩も入っている事が効率の良い温熱効果を醸し出しているものと思われます。
熱いのが好きなら是非一度お試しあれ。
美食
弟子屈と言えばやはりこのくまうしの豚丼か弟子屈ラーメンを思い出してしまう訳ですが、この日はこのあと標茶経由で帰ったので、標茶で食べた・・・
あげ冨のホルモン味噌煮込みラーメンを推したい。
味噌ラーメンというか、モツ味噌煮込みに麺が入っているという感じ。
ホルモンがかなり大量に入っており、ボリュームバッチリでしたな。
外もクソ寒かったし、温泉の後に食べるにはうってつけのメニューでした。
110・美留和温泉
温泉
施設外観。
美留和温泉はヌプリオンド温泉同様に別荘地限定の温泉につき、今回は
「きらの宿すばる」
というペンションのレポートになります。
専用の露天風呂。外気温で冷える為、木蓋が被せてある。
どうです?この透明な湯。
硫黄山を隔てて川湯温泉の直ぐ近くにあるのに、こちらはこのような美しい単純泉なのである。
成分分析書
温度も適温の単純泉。47℃と適温なため、加水のない掛け流しだ。
概要
美留和温泉の場所は摩周湖と屈斜路湖のちょうど中間で、川湯温泉とは硫黄山(アトサヌプリ)を挟んで対の位置関係にある。
しかしたったこの距離でありながら、泉質は全く違う。
あちらは五寸釘を1週間で溶かしてしまうような強酸性だが、こちらはpH8.36のアルカリ性単純泉だ。
ちなみに、美留和温泉もヌプリオンド温泉同様に別荘地にのみ引かれた温泉なので、日帰り入浴できる公共浴場はない。是非宿泊して堪能していただきたい。
実はこのペンション、恐ろしくわかりづらい場所にあって、国道から少し道を逸れるともうこんな世界が広がっています。
たまに泊まるにはいいけど、住むとなるとどうなんだこれ・・・。
私有地なんでしょうが、溜め池のようなものもありました。水鳥の観察でもしてるんですかね・・・。
水源が気になるが、もしかすると摩周湖系の水脈なのではないだろうか?
今回は源泉らしきタンクを発見する事は出来なかった。
総評
別荘地の引き湯という事ですが、その源泉温度と専用源泉という事で、使用環境としては最高の状態で入浴できました。
何と言っても貸切だからね。
内湯は41℃との事だったが、体感では43℃位あって割と熱めに保持されていた。源泉温度に後からの加水で調整しているようだったが、この辺は季節にもよるんだろうな。今の時期だともう少しぬるめになっているかもしれない。
単純泉という事もあって、源泉は匂いもクセも全くない。
少量炭酸水素イオンはあるんだが、土っぽさもなかったね。
弱アルカリ系だがツルツル系ではなく、あくまで温かい湧き水として素直な泉質を堪能する事が出来た。
参考画像:単純泉らしく源泉湧出部位周辺に結晶化が無い。
ぬるめの湯を長く堪能するなら露天風呂を推す。
周りは全く人の気配も無く、静かで優雅な時間を堪能する事が出来る筈だ。
日常で入るなら最高の温泉だろうね。
美食
ペンションと言えばオシャレなコース料理ですよね、やっぱ。
一品目はアボカドとりんごのサラダ。
二品目はジャガイモとキャベツのスープ。
摩周ハイボールなど頂きながら
3品目はホタテのグラタン。これは絶品だった。
キノコのスープ的なやつ。これが意外にボリュームがあった。うんめぇ。(うまい)
メインの肉料理は知床鳥のワイン煮込み。
先のキノコがかなりボリュームがあって、かなり腹いっぱいになった。
そしてこのあとデザートに繋がりました。
メニュー一覧。
季節によっても変わるらしいので、通年通して遊びに来てもええんやで?
朝ごはん。
やはり別荘地のペンションと言えば手作り酵母パンよの。
如何でしたでしょうか?
柔らかな温泉は肌の弱い都会のOLの皆様にもうってつけの温泉です。
北海道は健康でヘルシーな食事と共に、いつでも社畜の皆さんをお待ちしておりますよ。着苦しいスーツなんか脱ぎ捨ててジャージで来なさいな。
109・ヌプリオンド温泉
温泉
透明な硫酸塩泉。この温泉は各部屋に専用に用意されており、完全貸切。
いずれも小さな露天風呂での利用となっている。
源泉タンクからはそれほど離れておらず、なかなかいい鮮度が保たれていた。
成分分析書
クセのない薄めの硫酸塩泉。珍しく炭酸水素イオンが少ないので、さらりとして初心者でもなじみやすい温泉だと思われる。
概要
今回お邪魔したのは道東にある屈斜路湖周辺にある「小さなオーベルジュ・てぃんくる」というペンションで、ヌプリオンド温泉というのは屈斜路湖周辺にあるこの別荘地に引かれた、居住者専用の温泉です。
日帰り入浴も頼めばさせてくれるんでしょうが、個人宅感の強いペンションだけにハードルが高いので、詳細については後述しますが、是非宿泊で利用して頂きたい。
これが別荘地に提供されている源泉のタンクで、なるほど周りを散歩してみると辺りの別荘からも個人宅で整備された露天風呂らしい建物から湯気が濛々と上がっているではないか。
直ぐ近くにはコタン温泉や和琴温泉なども出ているわけですが、いずれも個性が全然違う。それに、ここは公共浴場が無いのである意味入浴体験としてはとても貴重な温泉です。
辺りはこんな感じで、一体どんな人々が此処で暮らしているのだろうか?等と色々な想像はしてしまうが、総じて嫌世的というか・・・自然と共に生きる的な、文明から隔絶した感のある別荘地でした。
辺りには農地も拡がっていて、これは早朝に散歩をした写真なのですが、凍り付いた泥が少し心地の良い踏み心地でね・・・もうなんていうか、訳もなく哀しくなってくるような郷愁のある風景が広がっていました。
ただ、人生には時にそういう時間も必要です。
この「小さなオーベルジュ・てぃんくる」ではゲストは離れにある部屋に宿泊しますが、この部屋にはテレビやWi-Fiといった世間とのつながりは一切無く、各部屋に備え付けられた温泉だけが私達を待っています。
此処は温泉を通じて、そうした個人の時間を取り戻してくれるペンションなのです。
ひゅー、歪みねぇな・・・。
総評
この施設では各ゲストの部屋に専用の露天風呂が付いている貸切方式の温泉で、とにかく周囲から隔絶された雰囲気が最高にCOOLです。温泉とは別にユニット式のバスもあるので、外の風呂を入る前に身体はそちらで洗うとよいでしょう。
最初は夜に入ったのでモール質のある濁り湯なのかと思いましたが、翌朝撮った冒頭の写真でも分かる通り、全く透明な優しい硫酸塩泉でした。
お湯の匂いは爽やかで活きが良く、タンクが施設の直ぐ近くにあった事から、それほど湯の草臥れはないようでした。別荘地の規模からして混合泉ではなく単一源泉。
湯は浴槽の底から少量フローされていて、源泉は50℃と結構熱いので加水でお湯の温度を調整しているようです。
宿の主人に頼むと温度は適宜調整してくれます。ぬるくして長湯するもよし、熱くして源泉を堪能するもよし、個人専用の風呂でここまでできるのはありがたいですよね。
泉質は前述の通り薄めの硫酸塩泉で、香りも良いしクセが無くとても入り易かった。
チェックインからチェックアウトまでに4回位入ったけど、泉質はかなり軽いので湯疲れしないと云うのがこの温泉の良いところですね。
美食
オーベルジュというくらいですから、洋食のコースでした。
赤ワインのボトルをイン。
前菜。この時点で大分オシャレ。トマトのカプレーゼが目を引きます。
サーモンのフリット。一瞬で腹に消えた。
サツマイモのポタージュなので、甘くておいC。
牛スネ肉の煮込み。これは絶品だった。
元々固い脛肉だけど、柔らかく煮込んであってとても柔らかかった。
デザートの抹茶ケーキとアイス。ご満悦やったねぇ。
メニューはこんな感じでした。
朝ごはんもオーガニックな逸品が揃い、野菜なやハムなども自家製みたいです。
パンも手作りで非常に美味しかった。
正直また行きたい。
さて、今回は趣向を変えた紹介でしたが、とにかく時間をゆっくりと過ごしたい人向けのプレミアムな温泉でした。
日頃から新宿とか上野辺りの自動改札機で流れを断った人に舌打ちを打つくらいには精神が摩耗・疲弊している社畜の皆さんには無理矢理にでも休みを取って、是非一人で入りに来ていただきたい温泉ですね。
もう疲れた・・・正直もう誰とも関わりたくない・・・。
そんなあなたにお勧めです。
108・オソウシ温泉
温泉
施設外観。見るからに秘湯感を醸し出しているまさに秘湯。
事実、とんでもなく辺鄙なところにあります。
大浴場。シンプルな内湯は加温による提供。というのも、ここの源泉は25℃程度しかないので、加温しないと入れないのである。その代わり・・・
ちゃんと源泉を水風呂として用意してくれている。
歪みねぇ~。
露天風呂もあります。内湯よりも若干ぬるめに設定されているんですが、ご覧の通り外がもうクソ寒いため、一度入ると迂闊に出られなくなるリスクがガガガ。
こちらが源泉。源泉はなんと自噴で、25℃程度の泉温です。そのため、この源泉をプールした源泉浴槽は外気が寒すぎてほぼ水になっていました。
筒から垂れてる産まれたての源泉だけが仄かに温かい。
成分分析書
特筆すべきはpH値。
なんと10もあります。通常では検出されない水酸化物イオンがkg辺り1.7mg検出されており、世界的にも稀有な泉質を持った温泉です。
この他にも滅多にイオン型を取らない硫化水素イオンが多い事も特徴かもしれません。もう少しミネラルが多かったり泉温が高ければ、緑色とかになっていたかもしれない・・・?
ここと近い泉質を持っているのは私の知る限り日本でも埼玉の都幾川温泉(貸切専用)と、長野の白馬八方温泉位のものです。
たまげたなぁ・・・。
概要
場所は北海道のほぼど真ん中。
以前紹介したトムラウシ温泉
に向かう道の途中で、然別湖の方に少しそれた林道の先にある温泉。
トムラウシ温泉よりは行きやすいが、途中から7km近くは未舗装路を走らねばならない為、かなり行きづらい場所にある正しく秘湯です。
道中の道はこんな感じです。熊とかマジで出そうなんだよなぁ・・・。
ただ、旅館にはクッソ可愛い猛獣ことケンさん(秋田犬)が放し飼い(首輪してない)されているため、こいつが熊や鹿のバリアーとなっているようです。
もう老犬の部類に入るケンさんですが、非常に頭が良いです。
私は「散歩に行こうぜ。」と声をかけて周囲を歩いたのですが、それを聞いた彼はこのように私の行く先々であちこちにマーキングをして、色々な動物が近寄らないように先導してくれました。
エゾオオカミのいなくなったこの北海道にあって、秋田犬であるケンさんは事実上の王者として森に君臨しているのです。
若い頃は小鹿程度なら自分一人で仕留めて食ってたというケンさん。
今は旅館の番犬として、来客の車の音を聴くと主人に吠えて教えてくれるアラーム役として過ごしている。
仲良くなった彼は帰りも見送りをしてくれた。クッソ可愛い益獣。
総評
この温泉はまず間違いなく北海道内でも他に類のない唯一無二の泉質を持っている温泉です。東北地方でもこれほど純度の高い強アルカリのこの泉質は見たことがありません。
まず簡単に云うと天然の石鹸水です。
いや、実際の所その表現は少し語弊がある。
正しく表現するならば、天然の石鹸の元の水が良いかもしれない。
石鹸水とはアルカリで鹸化した脂肪酸塩が溶けた溶液の事で、アルカリの強いこの温泉は人間の皮膚上でその脂肪酸と反応し、皮膚の表面に石鹸が出現します。
そのため、湯に漬かった直後は皮膚がどんどんアルカリで溶かされて石鹸と化し、ヌルヌルとした感触が全身に広がるのです。
しかしこのヌルヌルは長湯によってやがて収まります。
皮膚のバリア機能を果たしていた脂肪酸が洗い流されると、今度は手や皮膚にパツパツとした摩擦感が現れ始めるのです。
それはまるで、石鹸で手を洗いすぎた後のようです。
参考画像①
これは洗い場の側に設けられているかけ湯代わりの源泉だが、実はこのかけ湯、よーく観察してみると・・・
参考画像②
ヌルヌルとした水垢のような物・・・いや、これは石鹸だ!
石鹸を一晩水に浸した時にできるヌルヌルとした浮遊物が、このかけ湯に発生しているのである。実はこの写真は前日の夜にかけ湯槽をきれいに掃除した後、一晩おいた後に撮影したものだが、強アルカリであるこの温泉は常に液中にある有機物と反応してこのような石鹸を発生させているのである。
念の為内湯ももう一度観察してみると、温度が高いため殆どが溶解しているが確かにフワフワとした水垢のようなものが浮いているではないか。
これは入浴客の肌の脂肪酸や配管の中に生じた有機物に温泉が反応してできた石鹸だと思われます。他にも露天風呂ももう一度観察しましたが、浴槽の縁に生えている雑草の葉が、ヌルヌルと溶解されて浴槽に沈んでいるのを発見した。
何という事だ、これはあらゆる生物を溶かす魔性の温泉なのだ・・・!
そこで入浴前後の効能の検証に入る。
通常、塩類泉などは皮膚表面の脂肪酸にナトリウムやカルシウムなどのイオンが付着して皮膚をコーティングし、保温効果を高めると云われているが、この温泉はその真逆を行くと云う事が判った。
つまり、皮膚の脂肪酸を極力洗い流す事で、浴後は体温が奪われやすい状態に陥ってしまうのである。
事実、25℃の源泉水風呂との交代浴を試してみたのだが、この源泉水風呂は25℃とは思えない程冷たく感じるではないか!通常は15℃程度の水風呂に入っても何ともない自分が、25℃の水風呂で寒さを感じるというのは、つまり身体を冷気から守っていたバリアが落ちてしまっている事を意味する。
だが、ホメオスタシス(人体の恒常性)って面白いもので、浴後の私の身体は失われた皮膚の脂肪酸を取り戻さんと、汗腺から大量の汗を噴き出してくるのである。
この発汗を温熱効果と勘違いしている人は多いようで、この温泉は温まる!と宿の主人は主張していたが、科学的に考えてこれはありえないと思う。
恐らく温泉の中のアルカリによる脂肪酸の喪失で、新陳代謝が活性化して皮膚表面の分泌系が亢進しているホルミシス効果なのではないかと私は考える。
数多くの温泉を入って来た自分だが、この浴感は初めての感覚で、大変な驚きと好奇心を持ってこの温泉を堪能する事が出来た。
これらの効能を踏まえて医学的にこの温泉の効能を評価するとすれば、その本質は皮膚の洗浄と代謝の亢進にあるかもしれない。風呂に入る度に大量の脂が洗い流されるので、皮脂の多い吹き出物体質の人や、皮下脂肪の多い肥満傾向な人間の湯治にはうってつけなのではないか?
昼間はケンさんと共に山を歩き、脂質の少ない山菜料理を食べて、毎日この風呂に入れば体質そのものがガラッと変わりそうな気がする。
逆に、身体が細く、皮下脂肪の少ない人間には酷な温泉になりうるという事も付け加えておきたい。そういう人は単純泉か薄めの塩化物泉の方が合っている筈だろう。
その希少性からして、このオソウシ温泉は泉質ガチ勢として北海道最高ランクの称号に相応しいと思われます。
美食
晩飯は一般的な旅館飯。野菜や山菜を中心に、心ばかしの刺身などが付く。
ちなみにグレードを上げて黒カレイの煮付けを出してもらっている。
カレイもそうだが、右手にあるエゾシカ肉の煮込みも非常に美味くて、山菜中心だった翌日の朝ごはんも含めて
「あぁそうそう、こういうのでいいんだよ・・・」
と言いたくなるラインナップでした。
とにかくここは泉質がヤバいので、泉質ガチ勢は一度行くべき。
塩素も加水も一切ないので、強アルカリ性泉の本性を見て取れる稀有な温泉でした。
107・定山渓温泉
温泉
ここにきてまさかの王道。
定山渓温泉屈指の高級ホテル、第一ホテル翠山亭です。
メイン浴場。まったく人のいない時間にチェックインしたので、このように貸切状態でした。やったぜ。
露天には超ぬるめに設定されたジャグジー。極楽過ぎていつまででも入っていられるね。
ちなみに高級ホテルなので、部屋にも温泉が引かれています。
一人静かに源泉そのものを味わうならここでも良いかもしれない。
今回このホテルを選んだのには一つの理由があって、泉質ガチ勢としては泉質ガチの温泉に入らないと気が済まない。
定山渓は利用者が多い分加水の温泉が多いわけですが、この第一ホテル翠山亭に泊まると、離れにある森乃湯という源泉かけ流しの小浴場が利用できるわけです。
森の湯には露天風呂もあって、ここも内湯同様完全加水無しの源泉掛け流し。
透明なように見えますが、少し黄色っぽく濁ってるんです。
足元の十字にクロスした給湯口から極少量、足元給湯されています。
森の湯は洗い場僅か4席の小規模浴槽。
ウエルカムドリンクもつくので、早めにチェックインして堪能しよう。
成分分析書
攻守ともにバランスの取れた成分。重曹を含んでいる辺りがやはり北海道らしい。
概要
定山渓って実は札幌市内なんですよね。
北海道内外にも有名なこの定山渓温泉ですが、関東圏で例えると云わば箱根・・・札幌の奥座敷的な温泉地の様相を呈しています。
いずれも高級志向の温泉旅館が数多く軒を連ねており、しかしそれ故に登別のように源泉をドバドバ流しっぱなしているホテルは殆どありません。
定山渓最古と呼ばれる鹿の湯ホテルも一般大浴場ではその設備の広さから加水無しの供給は難しいようで、以前と印象が大きく変わっていたのを覚えています。
まぁ温泉は浸かる以外にも色々と使い道がありますからね・・・。
幻想的な公園や足湯は外国人観光客にも人気でした。
総評
泉質ガチ勢という意味での評価をすると、定山渓温泉の源泉はそれほど個性の強い湯ではないので、基本的には宿泊施設の提供するサービスを如何に堪能するかがその楽しみの分かれ道となるでしょう。
云わば都会の人向けの温泉であり、細い源泉をわざわざ少量フローして手間のかかる源泉掛け流しを提供しているこの高級ホテルは、それ自体が付加価値であると言える。
泉質ガチ勢としての真っ直ぐな評価としては、やはり混合泉での提供であるが故、それが源泉掛け流しであったとしても湯のこなれ感、草臥れ感を感じてしまう。
直ぐ奥にある豊平峡温泉とは似て非なる泉質で、水脈の問題なのか定山渓温泉は総じて薄い印象を受ける。泉質としては留寿都温泉に近いイメージであるが、あちらほど黄色くない辺りはやはり川の渓谷沿いに湧く温泉だからだろうか?言い方にもよるだろうが、薄いというよりも上品と評した方が良いかもしれない。
ロケーションなどは申し分なしだが、箱根同様に国道が近くを走る関係で、静かかどうかといわれると別段そうでもないような気がした。
施設そのものはマジで申し分なし。
複数の浴場にサウナ、水風呂、露天ジャグジー、総合的に浴場として極楽でした。
美食
高級ホテルの晩飯という事で、ワクワクしながら晩飯に臨む。
そして前菜に蕎麦が出るという変化球。おっとぉ?
小物ではあるが、つぶ貝を出すのは北海道らしい。これは青つぶかな。
刺身。しかし道南で散々活ボタン海老とか食って来たからなー。
鍋物。これはポイント高かった。やっぱ鍋はいいもんですねー。
焼き物。鶏肉を塩とワサビで提供する辺りが渋い。ジャガイモはインカでしたな。
このあとご飯ものが提供され、鍋がおじやに変化します。
そして〆のプリンへとつながる。
流石に高級ホテルというだけあって、エレガントな時間を堪能する事が出来た。
メニュー一覧。
いかがでしょうかね?
温泉旅行といえばやはりこういうのが醍醐味かもしれません。
札幌民は定山渓温泉ってあまり泊まりに行かないので、たまにはこういうのも良いですね。
106・コタン温泉
温泉
施設外観。かなり年季の入った公共浴場。
浴室に入った瞬間鼻にツンとくるアブラ臭。
これはマニア大喜びですよ・・・。
湯は茶色いというよりは黒い。火山質故の色なのか、それともモール由来なのかはイマイチ判別できない。いずれにせよここ屈斜路湖は火山の火口部に位置する部分なので、辺りには様々な温泉が湧いている。
成分分析書
見た目と匂いのインパクトはあるものの、成分は意外な程薄めの重曹泉。
ほぼ単純泉に近いレベルの塩分濃度であるが・・・。
概要
屈斜路湖畔に湧くコタン温泉は結構昔から知られていた温泉らしい。
コタンって名前がつくくらいだから、その昔アイヌの人々も浸かりに来ていたのだろうか?そういえばちょうど今アニメでゴールデンカムイが放映中ですが、硫黄山~屈斜路湖辺りに杉本一行が来ていたので、もしかしたらこのコタン温泉も漫画のモデルになっている温泉の一つかもしれませんね。
ちなみにこのコタン温泉は公共浴場とは別に無料の露天風呂も整備されていまして、キャンパーには割と大人気のスポットだったりします。
入っている人がいたので直接浴場は写しませんでしたが、入口はこんな感じで、湖に面した大変素晴らしいロケーションです。
湖畔にも湯が出ているのか、辺りは野良白鳥だらけだった。これ餌付けされてるわけじゃなくて、全部野生です。
総評
この辺りの温泉といえばやはり川湯の酸性泉が有名なわけですが、このコタン温泉もまた個性の強いガッツリ油系の温泉であり、湯に漬かった印象としても肌にねっちょりと張り付く有機物系の温泉という印象を受けました。
浴場は写真の通り内湯一択で、カランからも温泉が出ています。
源泉は70℃近くあるためいくらか水で埋めながらでの運用ですが、自分としては体感で43℃位に感じたが、それでも地元の爺さんに聞いたら「今日はぬるい」とか言ってたので、恐らく季節によっては44~45℃位の温度調整で運用されているものと思われます。やっぱ源泉割合はそれなりに高く維持されているようですね。
近所でも熱い湯と云う事では有名な浴場のようです。
それらに加えてこの鄙びた感じ・・・たまらんね。
泉質ガチ勢を自認するワイとしても納得の高評価です。
美食
この時は屈斜路湖に向かう途中で標茶の多和平に寄ってきたんですが、
多和平ってこんな所なんですよ。
バイク乗りは是非一度ここまで走りに来てもらいたいね。本当に感動するくらいデッカイドーなところです。
さて、そんな多和平で食したのが・・・
ジャガイモが丸々一個ぶち込まれたビーフシチュー。
肉はとろとろに煮込まれていて、繊維質が柔らかくなっていて大変美味でした。
もあるので、是非そちらも立ち寄っていただければと思います。